| モトは「某所07'バレンタイン企画御題」です。 【A.シャンクス が B.ベン に C.香水 を贈る】 だった、んですが…香水から遙か遠くーに来てしまってるんですが、 そしてU様のお誕生日祝いだったはずなのにそれもとうに過ぎて… とってもマヌケですが、ここ一月あまりの悪あがきの結果をご報告。笑ってやってください。 |
| 晩 白 柚 |
その港は、かなり内陸に入り組んだ入り江の奥にあった。 所謂“追われる身”である海賊団が錨を降ろすにはいささか不穏当な港ではあったが、赤髪海賊団陰の実力者であるところの医師とコック長から揃って寄港希望が出されたとあっては誰も異を唱えることなどできはしない。怖い者知らずの船長殿ですら、一も二もなく首を縦に振った。 まずは、土地の住民の意思を尊重すべく、まず先遣隊が出された。 そうして、先遣隊が首尾良く交渉をとりまとめて戻ってきた時点で、とにかく人手がいるのだという理由で船には最小限の人員のみ残して、総員でかかれ、持てる限り持ち帰れとの厳命が下っている。 それでも早朝ではなく、昼過ぎまで動員を猶予したのは、せめてもの情けだったのだろう。もちろん酒は控えろというお達しも出ていたが、そんなもの守られるはずもなく。 「勘弁してくれや。俺ぁついさっき寝たとこなんだ」「そりゃ夜っぴて酒盛りしてた手前が悪いんだろーが」「抜かせ。久しぶりに陸に上がって酒が目の前にあるってのに飲まないなんざ海賊(オトコ)じゃねえや」 「で、何仕入れんだ?」 相変わらず呑気な質問をしてくれたのは、お頭で。 今回ばかりは全員が船長殿の“勇気”に感謝していた。なにしろ全員買い出しに行けと刈りだされたはいいが、何をとは説明されぬまま籠を渡されたのだ。それも、5つ6つの子どもくらいまるっと入ってしまいそうなでかい籠である。ごていねいに背中に背負うための襷まで付いている。そんなものを背負わされた日には、海賊としてのアイデンティティが崩壊しそうになっても無理はない。ワタシハナニヲカッテクレバイイノデショウとばかりに全員の頭上にはでっかい?マークが貼り付いていたのだ。それでも誰も(姦しいの狙撃手でさえも)何も言わなかったのは、副船長もきっちり同じ格好だったからだ。副船長が混じってる以上、そうそう悲惨なことにはなるまいという信頼感が雑駁な集団である海賊団をまとめていたわけで、それでも聞きたくてうずうずはしていたのだ。船長、聞いてくれてアリガトウという心境だったろう。 「バンペイユだ」 副船長の返答は簡潔だった。 「ばんぺいゆ?」 「それ、なんだ?食べられるのか?美味いのか?」 棒読みでの復唱に続く矢継ぎ早の質問も、今回ばかりは大歓迎というものだろう。 「柑橘類最大の果実だ」「当然食べられる」 「美味な方だと思う。特にこの地域の晩白柚は味の良さでは定評がある」 副船長の説明は簡潔明瞭だった。木で鼻を括ったようなとも言う。 「ドクターは壊血病予防用に、司厨長は香り付け用やデザート用に欲しがっている」 「デザート?」 「ああ、生で良し、砂糖漬けにして良し、料理の香り付けにも使えるらしいからな」 「おまけに保ちが良い。そうそう傷まないので長い航海にはもってこいの果実だ」 「優れものなんだな、そのばんぺいゆ」 船長殿はさも感心したという態でうんうんと頷いている。ちゃんと副船長の話を聞いているということである。 「そういうことだ」 プライドが擽られたのか、心なしか副船長の眉間の縦皺も緩んだようだ。 たいへんよくできましたと無精髭だらけの顎でも撫でてやりたいところかもしれない。人目がなければ―― 「やだねえ、中年はこれだから。ハジライつーもんを知らんから」 「マッタクナゲカワシイこって」 おまえ達に言われたくないと副船長が聞いたら言っただろうが、当然副船長の耳には入らぬ所で言っている。二人ともそこまで命知らずではなかった。 果樹園は港を見下ろす高台にあり、その斜面に晩白柚の木は植えられているのだ。 斜面はけっこう急な角度であり、下手に転ぼうものなら、海へ真っ逆さまと言っても言いすぎではなかった。斜面一面に大きな黄色い実を付けた木が並び、その下には海が見えている。サウスブルーのような鮮やかさはないが、イーストブルーにしては明るい色の海だ。ただし、いかに綺麗な海とはいえ、好んで落下したいものでもない。 呑気な蜜柑狩りの気分で参加した一同は、背負わされた籠の意味をようやく悟った。別に酔狂や面白半分ではなく、この実をもぐには、これくらいの籠は必要なのだ。かつ、この角度ではもいだ実を足下に置くわけにもいかない。 そして、そのバンペイユ本体にご対面した赤髪海賊団御一同様の感想はと言えば、 「でけえ」 その一語に尽きた。 なにしろ1個が大人の男の顔より大きいのだ。直径20p以上はあろうか。 柑橘類の王という異名も頷ける。 「ルゥの顔と比べちゃどうだろ」 「いくらなんでも、あれと比べちゃな」 けっこう楽しいらしい。口は無駄口を叩きっぱなしだが、手もそれなりに動いている。 当然お頭も大喜びで加わっていた。 とはいえ片腕では実の付け根を捻って千切るというのは難しい。やたら枝を弾いては周りを恐慌に陥れていた。 一区切りついた頃、地元の女達(もちろんごく若い娘達ではなく子どもの数人も育てていますという態の逞しい女性揃いではあったが)が、パンやハムなどちょっとした軽食と飲み物を差し入れてくれたのだ。 「ありがたい、腹の皮が背中にくっつきそうだったんだ」 晩白柚の皮を廃物利用したという茶は、いささか甘かったが、食べ物に文句を言うようでは真っ当な海賊ではない。新鮮で腐ってない水、黴が生えていない食べ物であれば御の字だ。大量に用意された食事もあっさりと海賊たちの胃袋に消えていく。 「サービスがいいなぁ」 「あい、お客さん方、いっぱい買ってくれたからね」 村長から上客へのサービスだという。彼女らにも幾ばくかの上がりは入るとのことで、女性陣は大変機嫌が良かった。 「うちの晩白柚は、とっても長持ちするからね」 「うちの人も航海には持って行くんだよ、生の実だけじゃなく砂糖漬けもね」 「へえ、そりゃ効くのか」 「もちろんさ、あたしらが漬けたんだよ」 「うちのなんか、これさえあれば医者はいらねえなんて言うよ」 「おー、ごちそーさん」「惚気られちゃたぜ、副」 「ああ、彼女らの旦那達は大陸まで漕ぎ出していくからな」 距離的にはさほど遠くない、だがその間の海は天候が定まらないのだという。 「特に大陸への風が吹く季節によく荒れる。大陸からの風が吹く季節にも」 けれど船を出さないわけにはいかない。 田や畑を拓くには狭すぎる土地、海辺に貼り付くようにして在るこの土地の民が生きるには、海に活路を求めるしかない。危険だからといって船を出さねば一家族のみならず集落全てが飢えにさらされる。 「それでもね、最近はずんと楽になったさ」 「そうそう、それもこの実のおかげさね」 「この実のおかげで航海中に人死にが出ることもなくなったし」 「最近じゃ、この実自体も売れるようになったし」 どうやら、ここにも遣り手の長がいるらしい。 「イーストブルーの者達は幸運だな」 小さな声で落とされた呟きを、聴き取ったものはいない。 副船長の少々込み入った脳神経の中で、どのような葛藤があったのか察したものも。 「そいつぁ良かったな。俺たちの船にも遣り手の副船長がいるから、すげえいい目してしてっぞ」 「船長さんご自慢の副船長って誰だい?」 「ほら、あいつ。いい男だろ」 堂々と指さして言ってのけたのは、実に立派な惚気返しであった。 あまりに堂々としていた故か、おかみ達もごく素直に受けとめた。 「ほんとだねぇ、いい男だよ」 「だろー」 「船長さん、いい男を掴まえたねぇ」 「まぁなー」 得意満面と言ったところだ。こういう時、というのは得てして失言だの失敗だのやらかすことになっている。 「いいのは見かけだけじゃねーから、こいつが一番得意なの」 次の「は」がでないうちにお頭の口には晩白柚の砂糖漬けが詰め込まれた。 「ふぁにふぉし」 多分「何をしやがる」と抗議したのだろうが 「好きだろ、甘いもの。もっとやろうか」 氷の如き語調で問いかけられては、さしもの“赤髪のシャンクス”も、おとなしく果実の砂糖漬けを食らうしかない。 そして、 「これ、甘くて美味えぞ、ベン」 新しいことに気が向いたら、他のことは忘れてしまうのも“赤髪のシャンクス”の長所ではあったのだ。 「…お口にあって重畳」なによりだ、言いつつ次の果実を渡してやる。 …悪さをしようとするわんこの気を逸らせようとしている飼い主のようだ とは、期せずして全員の脳内に浮かんだイメージだ。 そして、浮かぶと同時に慌てて消されてしまったのも全員に共通していた。 「なー、あれ、何言う気だったと思う?」 「決まってるっしょ。△△△の●●●」 「そっかー?俺ぁ■■■の●●●だと思うぞ」 「もー、どちらでもいいじゃなすか。見たいもんじゃなし。お二方だって別に知りたいわけじゃないでしょ」 幹部とはいえ若手に窘められる古参幹部というのも――― 赤髪の船ならではの図だろう。 くれぐれも摘み食いなどせずに持ち帰れとの厳命がなければ、もっと収拾が付かない事態になっていたかもしれないが、ドクトルと司厨長に逆らう船乗りはいない。 持ち帰られた晩白柚は保管庫に納められ、入りきらない分は部屋持ちの誰彼に割り当てられた。 即ちドクトルと司厨長、ごく少数の幹部達、そして船長と副船長だ。 自室がある者は籠ごと保管しておくようにということだったのだが、船長の分の籠は、そのまま副船長室に持ち込まれた。 「なぜ、ここに置く?」 「おまえ、マジで船長室にコレ置いておきたいのか」 真顔で問われれば、 「否」と答えるしかない。諸々が転がっている船長室に果汁たっぷりの果実なんぞ置いた日には洗い方の下っ端が泣く羽目になる。副船長は譲歩するしかなかった。 「気をつけろ」「香りに騙されて齧り付くな」 「まだ熟しきってない晩白柚はけっこう酸っぱいんだ」 という副船長の警告は、悠長すぎたらしい。今回に限っては、船長殿ではなくその周りにとって。 副船長が最後まで言いおわらないうちに 「ミギュッ」 けたたましいと言ってしまっては可哀相な悲鳴が上がる。 物珍しげに晩白柚に手を掛けていたカッツェが派手な悲鳴を上げて跳び退ったのだ。 「どーしたんだ、カッツェ、おまえが悲鳴を上げるなんざ」 シャンクスがいささか焦ったのも無理もない。 カッツェは本来無口な質だ。キモチは十分に伝えるものの、主な伝達手段は目と尻尾で、声は出し惜しみしてるかのように出さない。それが派手に叫んだのだから、一応飼い主というか船長として気遣ってしかるべきだろう。 「特大ネズミでも出たか?」 …そんな可愛げなシロモノか、あの猫が。 と、これは副船長のココロの声だ。賢明にも口には出さなかったのだが言わんとすることはしっかり伝わったようだ。 つつつっと副船長の足下に寄っていき、徐に立ち上がったカッツェは、電撃の勢いで副船長のブーツで思いっきり爪を研いでいった。その間数秒。さすがの副船長も反応しそこねた。 文字通り風のようにカッツェが去った後には、うっすら筋が入ったブーツ、を履いた副船長が残された。 そして、もう一人、笑い出すのをなんとか堪えようとするあまり、珍妙な顔になっている船長殿と。 「おまえってばほんとーに突発事態に弱いなぁ」 「戦略だの戦術だのが絡むと、ぜってー慌てないくせに」 「……これは、ようやっと馴染んだブーツなんだが」 「怒るなよ、ブーツの予備くらいちゃんと用意してあんだろ」 「…馴染ますまでが面倒なんだ」 「せっかちな事言うなよ、過程を楽しめよ、過程を」 「…そういう問題ではないと思うが」 「いいじゃん、相手は猫なんだからよ。俺の副船長ともあろう者が」 「…」 「ほら、代わりにいいことしてやるからさ」 「…」 結局、副船長が船長に勝てた試しはないのだ。一度たりと。 船長室はそれから数週間、柑橘系のたいそう良い香りに包まれていたそうな。少し遅れて他の部屋にも十分に熟した果実の香りが満ち、赤髪海賊団の船は、いと香しい船団として四海に名を馳せたそうな。 |
| 2007.3.25 |