| 寄るや波 |
| この頃、聞こえてくる声がある。 夜となく昼となく。時間も憚らず。 場所こそ船長室限定だが、聞こえてしまうものはどうしようもない。 航海自体はとても平穏なのに、 その声のおかげで赤髪海賊団の日常は平穏ではなくなりつつある。 あぁン…う…うぁ… ひ…ひぃ…痛ぇ…そこ… ヤだ、触んなぁーー 音だけ聞けば、幽霊か悪霊か、 はたまた物言う花を連れ込んだヤツがいるのかと 言いたくなるような声だが 海賊団の強者どもに言わせると 「幽霊の方がまだマシっ!」だ、そうだ。 左腕をおとしてきたシャンクスが床を離れて一月。 そもそも生死を危ぶまれる状態から、 二月足らずで復活するというのが 「人間じゃねぇ」と赤髪海賊団一同、声を揃えるのだが。 今では、シャンクスの左腕がないことは 既に、単なる事実になってしまっている。 シャンクスも赤髪海賊団もほとんど変わってはいない。 変わったことも、もちろんある。 その第一は、戦闘や剣の訓練があるたび、 副船長がシャンクスに整体とやらを施すようになったことだ。 それは、副船長が仕入れてきた新知識で、たいそう痛いらしい。 いったん始まれば1時間はたっぷりかかる。 その間、シャンクスはほとんど叫び通しと言っていいくらい叫ぶ。。 また、シャンクスの声は、よく通るのだ。 で、その間シャンクスの声を聞かされる羽目になった赤髪海賊団の面々は、ものすごーく困った状況に追い込まれたわけだ。 耐えかねてヤソップに頼み込んだヤツも、一桁ではきかない。 「何とかしてくれよ、あれ」 「何とかと言われても…」 ヤソップだとて、困っているのだ。 みんなの困惑も重々分かっているし、自分だとて木石ではない。 何も感じないわけではないのだ。 「けどなぁ」 言ってはみたのだ。 お頭にも、副船長にも。 結論―― どちらもムダだった。 副船長の対応は簡潔だった。 それで? いや、だからその回数控えるとか… こういった手当は、事後すぐが基本だ。 お頭が動いた後には、やる。それだけだ。 以上! と言わんばかりの木で鼻をくくったような対応にも 怒るわけにはいかなかった。 シャンクスの“左”が喪われたことで一番ダメージを受けているのが誰か、ヤソップにはよく分かっていたから――― お頭の対応は、もう少し長かった。 へ?声を控えろって。 だって痛ぇんだぞ! あのヤロー、まったく容赦ってもんがなくてよぉ。 止めてくれって言っても全然止めてくんないし。 あのごつい体でガンガンやられてみ? 体、裂けそうになるしよ。 もうもう戦闘の方がよっぽど楽だぜ。 ん?なんだよ、ヤソップ、みょーな顔して? なんだよ、もういいって?なにがだよ。 お頭も副船長も、結局は同じ穴の狢である! そう結論づけて、ヤソップは早々に退却した。 この船に乗ったが不運。 船の全員で耐える道を選んだのだ。 因みに、 次の港で、買い出し係が一番に買い込んだのは、 耳栓だったらしい。 |
| 2001.12.1 |
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