| 珍しく早起きして、あたしの横でごそごそしていたしゃんくすが雄叫びを上げた。 「ベン・ベックマンの馬鹿野郎!」 ベン?ヤな名前を聞いたわね。 あたしの耳が汚れるわ。内容には、全面的に賛成だけどね。 「どうした?カッツェ」 ぶんぶん首を振ったあたしの様子に気づいて、しゃんくすがあたしの顔をのぞき込んだ。 いけない。彼に心配させるなんて、あたしの本意じゃないわ。 あたしはできるだけ優しく彼の手を舐めてあげた。 しゃんくすの右手――大きくてあったかい。舐めると少し潮の匂いがして―― もっとも彼が潮の匂いのしないときなんて、そっちの方が珍しいんだけどね。 たまに来るスコールをシャワー代わりにした後とか、 もっとたまに無理矢理お風呂に入れられちゃった後とか。 ――また、ヤなこと思い出しちゃったじゃないのぉ。 どうして、あの男ってば、いっつもしゃんくすにくっついてるのよぉ。 「起こしちゃったか、悪いな。カッツェ」 ―――あたしの方が先に起きてるっていうのに、しゃんくすはいつもこう言う。 「寝てろよ、猫は寝るのが商売なんだぜ」 この声が好き、潮風の中、空気を切り裂くように伝わっていく声。 「寝てろよ、おまえは」 あたしの頭をぽんと叩いて、上掛けの中に押し込む。 この手が好き。大きくて、温かい。傷だらけだし、節くれ立ってごつい掌だけど、この掌の中にいれば、なんの心配もない…… ―――違ーう!守られてどうするのよ。あたしがしゃんくすを守るのよ。 そうよ、嵐からもネズミからも、あたしが守ったげる。 もっともあたしのしゃんくすは強いから、あたしの出番はあんまりないのよね。ネズミ相手の時くらいしか。ちょっと残念だわ。 ―――あの男相手の時は、また別。 だって、しゃんくすにやたらに触るんだもの。 しゃんくすはあたしのもんなんですからね。 あたしに断りなく触るんじゃないわよ!! あたしは知っている。しゃんくすの薄い耳が、どんなに柔らかいか。 彼の右腕が、ううん、右腕だけじゃないわね。彼の肌が、どんなに温かいか。 もう朧にしか覚えてないけれど、冷たくて冷たくて、もうダメだと思ったときあたしを呼び戻したのは、あの腕だった。 そうよ、あたしはしゃんくすに呼ばれたのよ。 あんたなんて,呼んでないわよ。ベン・ベックマン。 何の用よ。ここは、しゃんくすの部屋よっ。 こないだ張っ倒されたくせに。 ……ホントに、そんなでかい図体しているくせに、全然音も立てずに移動するんだから。 ふん、良いハンターなのは認めてあげるわよ。 ……何よ、そんな惨めったらしい顔をして。あたしは知らないわよ。しゃんくすを怒らせたあんたが悪いんじゃないの。 ……んもうねしようがないわね。ちょっとだけよ。 ―――なによっ、そのびっくり!って顔は。 そんな辛気くさい顔して隣にいられたら、放っとけないでしょ。うっとおしいったら。 けど座りにくい足ねぇ。ごつごつしてるし、体温も低いし。 こんなんの、どこがいいのよ。しゃんくす? あたしは、もうベンなんてほっといて食事することにした。 「あんた、その皿……」 なによ、しゃんくすがあたしにくれたモノに文句あるっての。 「あー、ちょうどいい大きさだったからな。カッツェも気に入ってるみたいだし」 そうそう、食べやすい縁の高さだしね。でも、シャンクスがくれた物なら、なんだって気に入るわよぉ、あたし。 「それは、マイセンのパウダーブルーなんだが……いや、いい……」 そうそう、さっさと諦めちゃいなさい。でもって、さっさとどっか行ってくれちゃうとベストなんだけど。……ンなわけにはいかないわね。 「シャンクス」 何よ、その声。ヤな予感がするわ。 「シャンクス」 ま、また!あんた、絶対わざとやってるでしょ、自分の声が良く響くの分かってて。 「俺は確かに女々しい。臆病者だ。 あんたのためというより、俺のために、あんたを求めてる。 あんたに切り捨てられても仕方がないと思う」 「………けど、あんたが好きだ。俺にはあんたが要る」 こ、この――裏だらけの人間のくせして。こんな時だけ正攻法で来るなんて。卑怯よー! 「……なら,二度と自分を投げ出すんじゃねぇ」 え,何?しゃんくすのこんな声。しゃんくす……本気で怒ってる? 「おまえ、夕べの手合わせん時、マジで気を抜いたろ?」 副船長が?うそぉ。この剣にかけちゃしゃんくす以上に厳しい男が? 「斬られてもいいって顔しやがって」 「俺が気づくのがあと少し遅かったら、間に合わなかった」 しゃんくす、しゃんくす、そんなイタイ顔しないで。 「おまえを斬った俺の気持ちっての考えたのか?」 そ、そうよ。別にあんたを心配するわけじゃないけど。 あんたを斬っちゃったら、しゃんくすは、どうなるのよ。 「……そこまで気が回らなかった」 あんたねぇ。 「ただ、アンタの剣に引きこまれてた」 あんたねぇ。 すまん、ぼそぼそと呟く声は、ひどく覇気がなくて、この鉄面皮男が心底恥じ入ってるのが分かったわ。 いい気味。いつもだったら、そう思うんだけど…… 「許さねぇぞ」 し、しゃんくす。 「俺に斬られて幸せになろうなんて、させるかっ。てめえはずーっと俺の傍にいて、俺のために苦労することになってんだ」 俺が決めた!って……そこで威張ってて、どうすんのよ。 「……じゃあ、俺はアンタより先には死ねないんだな」 「おうよっ」 しゃんくす、あんたも、何もそんな元気よくうなずかなくても…… 「死ぬわけねえじゃないか、俺がいるのに? 俺は俺の好きなようにやる。おまえだってそうすりゃいい」 「努力する」 ちょっと、どうしてそこでくっつくのよ、この男。 どうして誰も来ないのよぉ!お頭が危ないってのに―――!!! こ、この男、きっちり人払いしてきたわね。この狐ー! こらー、また!あたしを廊下に放り出して、ナニをするつもりなのよー。 しゃんくすぅ。何とか言ってよ。 騙されちゃダメよぉ。 ―――ムダだったわ。しゃんくすってば、人が良いんだから。 とゆーより、あの男が狡賢いんだわーー。 けど、譲ったわけじゃないんですからね。 しゃんくすは、あたしの人間。あたしのもの。 あたしが生きてる限り、あたしと共に居るべきなのよ。 覚えてらっしゃい、ベン・ベックマン。 あたしを閉め出したつけは高くつくのよ! |
| 2001.5.20 |
☆ これもモトはローズ様です。という訳で、ローズ様のページにリンク貼りました。ローズ様の小説の、どこがどーなって、こーいう風になったのか、はて、さて。
☆ カッツェは猫です。性別は、当然雌です。
猫訛りで「しゃんくす」と呼んでいます。焼き餅焼きです。シャンクスは自分のモノだと思っています。
当然ベンとの仲は最悪です。
猫だから説明も至極不親切……と設定してみたのですが、何だか不親切すぎたでしょうか。
訳が分からないーという箇所がありましたら、こっそり教えてくださいませ。(全部ってのは、ナシね;^_^A)
☆ >「ああ、この人になら斬られて殺されてもいい」
というフレーズに某掲示板で出会いまして〜
一発で煩悩の嵐にまみれました。……まぁ、それは私だけではなかったようですが;^_^A
その後、ティーポットさんのご発言が〜
>猛獣に食われる寸前の動物って、すくんでウットリしちゃうらしい
まるで嵐のさなかの鉄砲水。流されましたともさ。
☆ ともかくこのフレーズで書きためていたファイルはボツ!書き直しました。「副がシャンクスに罵倒されるの図2」
でも、私に剣戟場面は無理なので。ごにょごにょ。
☆ ほ、ほんとは「1」から順序正しく進むはずだっのだけど、はっと気づけば二ヶ月近く経ってるので、順序無視。
こちらから、アップします。
「Catch The Cat 5」へ