Catch The Cat 4

珍しく早起きして、あたしの横でごそごそしていたしゃんくすが雄叫びを上げた。


「ベン・ベックマンの馬鹿野郎!」


ベン?ヤな名前を聞いたわね。
あたしの耳が汚れるわ。内容には、全面的に賛成だけどね。

「どうした?カッツェ」
ぶんぶん首を振ったあたしの様子に気づいて、しゃんくすがあたしの顔をのぞき込んだ。
いけない。彼に心配させるなんて、あたしの本意じゃないわ。
あたしはできるだけ優しく彼の手を舐めてあげた。
しゃんくすの右手――大きくてあったかい。舐めると少し潮の匂いがして――
もっとも彼が潮の匂いのしないときなんて、そっちの方が珍しいんだけどね。
たまに来るスコールをシャワー代わりにした後とか、
もっとたまに無理矢理お風呂に入れられちゃった後とか。
――また、ヤなこと思い出しちゃったじゃないのぉ。
どうして、あの男ってば、いっつもしゃんくすにくっついてるのよぉ。


「起こしちゃったか、悪いな。カッツェ」
―――あたしの方が先に起きてるっていうのに、しゃんくすはいつもこう言う。
「寝てろよ、猫は寝るのが商売なんだぜ」
この声が好き、潮風の中、空気を切り裂くように伝わっていく声。
「寝てろよ、おまえは」
あたしの頭をぽんと叩いて、上掛けの中に押し込む。
この手が好き。大きくて、温かい。傷だらけだし、節くれ立ってごつい掌だけど、この掌の中にいれば、なんの心配もない……
―――違ーう!守られてどうするのよ。あたしがしゃんくすを守るのよ。
そうよ、嵐からもネズミからも、あたしが守ったげる。
もっともあたしのしゃんくすは強いから、あたしの出番はあんまりないのよね。ネズミ相手の時くらいしか。ちょっと残念だわ。

―――あの男相手の時は、また別。
だって、しゃんくすにやたらに触るんだもの。

しゃんくすはあたしのもんなんですからね。
あたしに断りなく触るんじゃないわよ!!

あたしは知っている。しゃんくすの薄い耳が、どんなに柔らかいか。
彼の右腕が、ううん、右腕だけじゃないわね。彼の肌が、どんなに温かいか。
もう朧にしか覚えてないけれど、冷たくて冷たくて、もうダメだと思ったときあたしを呼び戻したのは、あの腕だった。
そうよ、あたしはしゃんくすに呼ばれたのよ。


あんたなんて,呼んでないわよ。ベン・ベックマン。
何の用よ。ここは、しゃんくすの部屋よっ。
こないだ張っ倒されたくせに。
……ホントに、そんなでかい図体しているくせに、全然音も立てずに移動するんだから。
ふん、良いハンターなのは認めてあげるわよ。


……何よ、そんな惨めったらしい顔をして。あたしは知らないわよ。しゃんくすを怒らせたあんたが悪いんじゃないの。
……んもうねしようがないわね。ちょっとだけよ。
―――なによっ、そのびっくり!って顔は。
そんな辛気くさい顔して隣にいられたら、放っとけないでしょ。うっとおしいったら。
けど座りにくい足ねぇ。ごつごつしてるし、体温も低いし。
こんなんの、どこがいいのよ。しゃんくす?


あたしは、もうベンなんてほっといて食事することにした。

「あんた、その皿……」
なによ、しゃんくすがあたしにくれたモノに文句あるっての。
「あー、ちょうどいい大きさだったからな。カッツェも気に入ってるみたいだし」
そうそう、食べやすい縁の高さだしね。でも、シャンクスがくれた物なら、なんだって気に入るわよぉ、あたし。
「それは、マイセンのパウダーブルーなんだが……いや、いい……」
そうそう、さっさと諦めちゃいなさい。でもって、さっさとどっか行ってくれちゃうとベストなんだけど。……ンなわけにはいかないわね。


「シャンクス」
何よ、その声。ヤな予感がするわ。
「シャンクス」
ま、また!あんた、絶対わざとやってるでしょ、自分の声が良く響くの分かってて。

「俺は確かに女々しい。臆病者だ。
あんたのためというより、俺のために、あんたを求めてる。
あんたに切り捨てられても仕方がないと思う」
「………けど、あんたが好きだ。俺にはあんたが要る」
こ、この――裏だらけの人間のくせして。こんな時だけ正攻法で来るなんて。卑怯よー!


「……なら,二度と自分を投げ出すんじゃねぇ」
え,何?しゃんくすのこんな声。しゃんくす……本気で怒ってる?
「おまえ、夕べの手合わせん時、マジで気を抜いたろ?」
副船長が?うそぉ。この剣にかけちゃしゃんくす以上に厳しい男が?
「斬られてもいいって顔しやがって」
「俺が気づくのがあと少し遅かったら、間に合わなかった」
しゃんくす、しゃんくす、そんなイタイ顔しないで。
「おまえを斬った俺の気持ちっての考えたのか?」
そ、そうよ。別にあんたを心配するわけじゃないけど。
あんたを斬っちゃったら、しゃんくすは、どうなるのよ。
「……そこまで気が回らなかった」
あんたねぇ。
「ただ、アンタの剣に引きこまれてた」
あんたねぇ。
すまん、ぼそぼそと呟く声は、ひどく覇気がなくて、この鉄面皮男が心底恥じ入ってるのが分かったわ。
いい気味。いつもだったら、そう思うんだけど……
「許さねぇぞ」
し、しゃんくす。
「俺に斬られて幸せになろうなんて、させるかっ。てめえはずーっと俺の傍にいて、俺のために苦労することになってんだ」
俺が決めた!って……そこで威張ってて、どうすんのよ。
「……じゃあ、俺はアンタより先には死ねないんだな」
「おうよっ」
しゃんくす、あんたも、何もそんな元気よくうなずかなくても……
「死ぬわけねえじゃないか、俺がいるのに?
俺は俺の好きなようにやる。おまえだってそうすりゃいい」

「努力する」

ちょっと、どうしてそこでくっつくのよ、この男。

どうして誰も来ないのよぉ!お頭が危ないってのに―――!!!
こ、この男、きっちり人払いしてきたわね。この狐ー!

こらー、また!あたしを廊下に放り出して、ナニをするつもりなのよー。
しゃんくすぅ。何とか言ってよ。
騙されちゃダメよぉ。


―――ムダだったわ。しゃんくすってば、人が良いんだから。
とゆーより、あの男が狡賢いんだわーー。


けど、譲ったわけじゃないんですからね。

しゃんくすは、あたしの人間。あたしのもの。
あたしが生きてる限り、あたしと共に居るべきなのよ。

覚えてらっしゃい、ベン・ベックマン。
あたしを閉め出したつけは高くつくのよ!


      

                   

2001.5.20

                                                                             

☆ これもモトはローズ様です。という訳で、ローズ様のページにリンク貼りました。ローズ様の小説の、どこがどーなって、こーいう風になったのか、はて、さて。

☆ カッツェは猫です。性別は、当然雌です。
猫訛りで「しゃんくす」と呼んでいます。焼き餅焼きです。シャンクスは自分のモノだと思っています。
当然ベンとの仲は最悪です。
猫だから説明も至極不親切……と設定してみたのですが、何だか不親切すぎたでしょうか。
訳が分からないーという箇所がありましたら、こっそり教えてくださいませ。(全部ってのは、ナシね;^_^A)

☆ >「ああ、この人になら斬られて殺されてもいい」
というフレーズに某掲示板で出会いまして〜
一発で煩悩の嵐にまみれました。……まぁ、それは私だけではなかったようですが;^_^A
その後、ティーポットさんのご発言が〜
>猛獣に食われる寸前の動物って、すくんでウットリしちゃうらしい
まるで嵐のさなかの鉄砲水。流されましたともさ。

☆ ともかくこのフレーズで書きためていたファイルはボツ!書き直しました。「副がシャンクスに罵倒されるの図2」
でも、私に剣戟場面は無理なので。ごにょごにょ。

☆ ほ、ほんとは「1」から順序正しく進むはずだっのだけど、はっと気づけば二ヶ月近く経ってるので、順序無視。
こちらから、アップします。

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