…理由(わけ)がある
| 女三人寄れば姦しいと古人は言ったが――― 男だとて、負けるもんじゃない。 まして、見習い待遇、船に乗ったばかりの新米どもなら…… |
| ぼそぼそぼそ ……じゃ、サイズが合わないとコトだから…… ぼそぼそぼそ ……あの通りの仕立屋は腕がいいって…… ぼそぼそぼそ ……問題は、赤か黒か、だよなぁ…… ミズンマスト辺りで、ひそひそやってた新米連中の相談がまとまって―― シャンクスに新しいシャツが贈られたのは、船が港を出た直後のことだった。 「これ、俺にー?」 シャンクスは何に寄らず、目新しいことが好きだ。 真新しい木箱に綺麗に納められたプレゼントに目を輝かせている。 「はい、お頭、いつも白いシャツでしょ」 「たまには、違う色をと思って」 「今のシャツと同じ仕立てにしてますから、体に合うと思いますー」 五月蠅いこと、この上ない、蠅ならぬ新米海賊ども。 “砂糖壺に群がる蟻のように”と言う例え通り、シャンクスの周りに群がっている。 ――つまり、彼らは、お頭がいつも同じシャツを着ているのを案じて、色違いを用意したわけだ。 (な、なんて怖ろしいことを、こいつら)(知らないって、コワイ) 古株である幹部の面々は、倒れそうになった。 そうっとはるか後ろに立つ副船長の方を窺ってしまう。 不気味なことに、彼は何も言わなかった。そのまま、船室へと下りていく。 彼の姿が見えなくなった時点で、ほーっと漏れた息は、一つや二つではなかった。 シャンクスは新しいシャツを気に入ったらしい。 気に入ったとなると、ずっと同じ物を着続ける質だから、よく分かる。 黒いズボンに黒いシャツ、サッシュだけが赤い姿で、シャンクスは身軽に船中、飛び回っていた。 「まるでコウモリだな」これは、ルゥの評。 「かっこいい♪お頭〜」これは、新米どもの声。 そして、平穏に日は過ぎて…… |
| 「お頭、あんた、そのシャツ何日着てる?」 地を這うような副船長の声に、全員が凍りついた。 それでも、ちっとも応えちゃいないヤツが一人。 「?んー?何日かなぁ」 のどかに小首を傾げて周りに問いかける。振られた相手の困惑など見えちゃいない。 全員、目を合わさないよう細心の注意を払って体の向きを変えた。 「もらった日からだから、えっとぉ」 ……それは、半月も前のことだ。いくら、水は貴重な海の上とはいえ。 運悪く居合わせてしまったヤソップは倒れそうになった。 (こんなことなら、……) 以下のフレーズが、頭の中でガンガン鳴り響いている。 ヘの字の口にふさわしい腕組みポーズを解いて、 副船長のごつい掌がシャンクスの脇腹をはらう。 ポンポンと言うには少しきつすぎる強さで。 「わ、何だぁ?」 「毛」 「へ?」 「あんた、猫の毛だらけだ」 確かに、明るい真昼の甲板に、黒い猫の毛が舞っている。 「あー、そりゃ、カッツェとは同じ部屋にいるんだからな」 (バカっ頭、この上刺激するんじゃないっ) 幹部達の叫びは、しょせん心の中で。 「おまけに臭い」 「へ?」 「汗くさい」 「汗くさいのなんて、みんな同じだろう?」 (いや、だからそういうレベルじゃなくて) ……みんな気が付いてはいたのだ。ただ、言い出し損ねていただけで。 「わっ、何しやがんだ」 さすがに焦った声。 副船長がシャンクスの襟首をがしっと掴んだのだ。 そのまま担ぎ上げ、ずんずん進む。 さながら紅海を行くモーゼの如く道は開かれ、 「離せっ。こらっ、副のバカヤロぉっ」 盛大に喚き立てる声が遠くなっていく。 ようやっと甲板に居合わせた全員は解放された。 「あー、俺。銃の手入れしなくっちゃー」 「おお、そろそろ飯の準備だよな」 とっととずらかったのは、やはり年の功で、幹部達だった。 呆然としていた新米どもも、何とか気を取り直して散った。 下の船室から、ひっきりなしに聞こえてくる罵声は、無いことにされた。 |
| 女三人寄れば姦しいと古人は言ったが――― 「まだ女の方がマシだ」 ヤソップは深々と溜め息をついた。 女なら、きゃっきゃっ言うのも可愛くない、こともないが、男ときたら。 まして十代二十代の、「赤髪のシャンクス」に幻想を抱いてるような連中ときたら。 実際、ハラハラしていたのだ。 日毎に副船長の眉間の縦皺が深くなっていくのに気づいていたから。 「オトコなんぞにゃ、惚れるもんじゃないさね。嫉妬の相手も八割り増しじゃねえか」 ちなみに残り二割は、完全レズビアンの女性と完全ヘテロ・セクシュアルの男性の分らしい。 ヤソップ、ヘンなところで律儀な男である。 副船長の苦労も知っているだけに、ルゥたちのような茶々を入れる気にはなれない。 (第一、副船長が手を引いたら、誰がお頭のお守りをする?) ―――あんな顔して、実は嫉妬深いんだとか、 シャンクスが絡むと、ものすごく心が狭いんだとか、 一応、赤髪海賊団の幹部として、副船長に夢を抱いてる連中の幻想をぶち壊すわけにはいかない。 彼らが真実に目覚めるまではそっとしておこうというのが、ヤソップの基本方針だ。 だから、シャンクスのワードローブは、全て副船長が管理しているとか、 着た切り雀に見える定番のシャツは実は、あちこちの港の選りすぐりの仕立屋に誂えさせたものばかりだとか、 無頓着に破ったり汚したりするシャンクスのために、予備のシャツが、常に1ダースはあるとか、 下っ端のうちは、そんなことを知る必要はないのだ。 古参の仲間入りをする頃には、いやでも知る羽目になるのだから。 (別に知りたくもなかったんだがなぁ) ヤソップの溜息は深い。 |
| 例の黒いシャツは――今も、シャンクスの衣装箱にあることはある。 けっこう気に入っているシャンクスは時々引っぱり出して着ているのだが、 あっという間に、副船長が洗濯に回させるので、黒いシャツのお頭を拝んだ者は、ごく少ない。 |
| 2001.9.29 |
☆ 栗本薫の同人誌を読んで育てた妄想が花を咲かせた……
うーん、花ではないかも。でも、ま、ラフレシアだって花だしぃ。
「個人の値打ちとは」とか「他人と違うとはどういうことか」とか
とっても格調高く考えてたはずなんですが。
どこがどうしてこんなもんに……
SSというより、ホントーの妄想です。
☆ 某サイトマスター様の小説を読んで以来、
ヤソップさんが気になってきたのですよね。
だって、副船長の場合は惚れた弱みというか、
好きでする苦労と言えないこともないけど。
ヤソップさんの場合は、巻き込まれというか、
降ってきた災難。
そんな彼って、何を思ってるのでしょうσ(^^)
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